ゲームのキャラクター紹介で出てくる多角形グラフ、ありますよね。攻撃力、守備力、スピード、スタミナ、などなど。数字を見るだけで、なんとなく「ああ、こいつこういうタイプなんだな〜」と、わかるあれです。では、映像ディレクターにも能力値があるとしたら……?そんな少年のようなキラキラした疑問を、bird and insectのディレクターたちが本気で考えました。
今回参加したディレクターは、この3人です。
・shuntaroさん 業界経験歴19年 (映像14年)
・久保山さん 業界経験歴8年
・浦さん 業界経験歴12年


そもそも、何を数値化する?
久保山:「この会って、なんかきっかけとかあるんですか?」
浦:「もともとshuntaroさんとの1on1で、若いディレクターやアシスタントディレクターをどう育てていくか、みたいな話をしてたんですよ」
shuntaro:「そうそう」
浦:「でも、じゃあディレクターってそもそもどうやって学んでいくんだっけ?って話になったんですよね。授業があるわけでもないし、明確に学ぶ場所があるわけでもないし、結局みんなそれぞれの道を進んで、それぞれ違うディレクターになっていくじゃないですか」
久保山:「確かに」
浦:「bird and insect にも何人かディレクターがいるから、自分たちがどういうタイプなのか、分布図みたいにしてみたら面白いんじゃないかなって。たとえば久保山くんみたいなディレクターになりたいってなったら、久保山くんがどういう経験をしてきたのか、そのルートを追えるかもしれないという感じ。そこから、まずはディレクターの能力を分解して、数値化してみよう!となったわけです」
・・・ディレクターと一口に言っても、その仕事はかなり幅広いもので、どんな能力が必要なのかは意外とわかりにくいものです。さらに、優れたディレクターになるための明確な道筋が与えられているわけでもありません。
だったら、一度ディレクターとして必要な能力を分解して見える化してみれば、自分の強みや弱みも把握できるし、その先の伸ばし方も考えやすくなるかも?と、考えたところが企画のスタートでした。
最初は『HUNTER×HUNTER』の念能力※のような分類も考えたものの、同じアイデア力の中でもファニーな企画が得意な人とクールな表現が得意な人もいるわけで・・・細かく分け始めれば項目はいくらでも増えるため、今回は作家性や個性ではなく、なるべく「ディレクターとしての基礎能力」に絞ることにしました。
※漫画『HUNTER×HUNTER』に登場する能力体系。6つの系統に分かれ、得意な能力や伸ばしやすい方向が人によって異なる。
浦さんが考えてきてくれた案をベースに、設定したのが、以下の7つの能力です。

「アイデア発想力」 : 新しい着眼点、表現方法、モチーフ、切り口を生み出す力。
「企画構築・プランニング力」 : アイデアをコンセプト、構成、演出プラン、実現方法に落とし込む力。
「現場演出力」 : 出演者への演出、現場判断、スタッフへの指示、状況対応。
「ビジュアル構築力」 : 構図、レンズ、光、色、美術、カメラワークを設計する力。
「編集・構成力」 : 素材の整理、テンポ、感情設計、音楽・音響、尺を調整する力。
「コミュニケーション力」 : クライアント対応、意図の共有、スタッフや出演者との関係構築。
「プロジェクト遂行力」 : 準備、段取り、予算・時間、リスク対応、完成への責任。
・・・ちなみに、「逆境に強い」とか「調子にムラがある」だったり「音ハメが得意」のような、その人ならではの特徴は『パワプロ』のサクセス※的な感じで「特殊能力」として別枠で考えることに・・・。今回は、基礎ステータスだけを見ていきます。
※『実況パワフルプロ野球』シリーズの育成モード。選手の能力値にポイントを振り分けながら成長させていくほか、「チャンスに強い」や「ケガしにくい」などの特殊能力も付与される。
自分を採点して、人にも採点してもらう
項目が決まったところで、3人それぞれが自分自身と、ほかの2人を10点満点で採点※しました。
つまり、1人につき「自己評価」と「ほかの2人からの評価」の3つの点数が並びます。

※5〜6=標準、7〜8=高い水準、9=非常に高い、10=業界トップクラス
それぞれの採点結果を共有してみると、少しずつ面白いズレが出てきました。
安定しているからこそ?
まずは、浦さんの評価から。最初の項目は、アイデア発想力。

shuntaro:「それは低すぎないか?(笑)」
早速、こんな言葉が飛びます。
アイデア発想力で、自己評価「3」をつけていた浦さん。さすがに自分への評価が厳しすぎると2人からツッコミが入りました。
浦:「アイデア発想力は、リファレンスとか、経験でなんとか補ってる感じがあって……」
久保山:「でも、リファレンスが必要だから低いっていうのは違う気もする。A×Bで新しいものをつくるのもアイデア発想力じゃない?」
shuntaro:「そもそも、採点する人によってアイデア発想力の基準が違うね」
・・・リファレンスからアイデアを得ていることで、アイデア発想力を低く自己評価していた浦さん。久保山さんとは「アイデア力」そのものの捉え方が異なっていました。
「何もないところから完全な0→1を生み出す力」=アイデア力と考えるのか、「既存のものを組み合わせて、新しい切り口をつくる力」まで含めるのか。
話していくうちに、同じ項目でも、そもそもの評価基準が人によって違うことが分かってきました。
一方、浦さんの現場演出力は自己評価「9」。ほかの2人も9点と8点をつけていて、3人の評価が高く揃います。
shuntaro:「社内で現場演出力が最も高いと思うのは浦さんなんで、みんな安心してやってる気がする」
浦:「安定感かなって、自分では。実現方法に落とし込む力っていうのが、強いかなと思ってます。ただ、それに縛られちゃって、突破できないところもあると思ってて……」
・・・安定して形にする力が強い一方で、その安定感そのものが、ときには発想の枠にもなる。
低く評価していたアイデア発想力と、高く評価されている現場演出力。一見すると別々の能力ですが、話を聞いていくと、その間にもつながりが見えてきました。
久保山:「これ、性格も出ますね」
浦:「性格も出ちゃうよね、それはそう」
・・・能力値をつけているはずなのに、採点している側の価値観まで見えてきたのは発見でした。何を「すごい」と思うのか、どこからを高い水準と考えるのかは人それぞれ。数字には能力そのものだけでなく、その人なりのものさしや、自分をどう見ているかという姿勢まで表れていたように思います。
採点される側だけでなく、採点する側の性格まで見えてくる。そこも、今回数値化してみて面白かったところのひとつでした。
自分では「普通」のことでも、周りから見ると「強み」

自己評価と他者評価のズレが特に大きかったのが、shuntaroさんでした。たとえば、現場演出力については・・・。
shuntaro:「現場演出力、僕の自己評価は5ですね。普通だと思う」
久保山:「いや〜、普通って言われるとしっくりこないです(笑) 出演者への演出だけじゃなくて、現場判断とかスタッフへの指示とか、状況対応までを考えると高い水準だと思いますよ」
shuntaroさん自身は「普通」と思っていることも、ほかの2人がつけた点数はそれぞれ8点と7点。本人の感覚と、周りから見た評価にはかなり差がありました。
自分では当たり前にやっていることでも、他人から見ると明確な強みになっている。自己評価と他者評価を並べることで、そんなズレも見えてきます。ビジュアル構築力について話していたときには、また少し違ったやり取りがありました。
久保山:「この会社にいなかったとして、ユーザー目線で見ても、この写真マジでいいなって思う時がある。それが僕の中で9の基準です」
shuntaro:「まあ写真も入れるんだったら、9かもしれない」
浦:「いや、入れましょう(笑)」
・・・shuntaroさんは当初「映像のみ」と考えて7と自己評価していましたが、写真も含めるなら確かに9でもいいかも?という話に。同じ「ビジュアル構築力」という項目でも、どこまでをその能力として捉えるかによって、点数は変わってきます。数字だけを見るのではなく、「なぜその点数をつけたのか」まで話してみることで、それぞれの仕事の捉え方も見えてきました。
こだわるところは、ちゃんと尖る。

久保山:「編集・構成力は9にしてます」
shuntaro:「俺も9」
浦:「ここは、9ですね」
・・・久保山さんの編集・構成力については、自己評価・他者評価ともに「9」で一致した一方で、企画構築・現場演出・コミュニケーション・プロジェクト遂行などは「5」前後でした。数字を並べてみると、きれいな形というよりも、少し「尖った」形になっています。
久保山:「尖ってますね(笑)」
shuntaro:「7とか9のところに、すごい集まってる感じがある(笑)」
話を聞いていくと、この点数の偏りは、単純な得意・不得意だけではなく、久保山さん自身の「興味」ともかなり重なっていました。
企画構築・プランニング力については、本人の自己評価も5。ほかの2人からも「ここにはそんなに興味がないように見える」という話が出ます。
一方で、編集・構成力やビジュアル構築力、アイデア発想力については、「好き」「興味がある」とかなりはっきりしています。
「自分はどこに興味があって、どこにこだわりたいのか」それが、そのままグラフの形に出ているようです。
もし、あと5ポイントふれるなら?

三者三様の形が浮かび上がったところで、久保山さんからこんな議題が出ます。
久保山:「・・・もし、自分の好きな能力を1ずつ上げられるポイントを5つ持っているとしたら、どこに振ります?」
この問いには、ちょっと盛り上がる3人。
弱点を埋めるのか、それとも武器をもっと尖らせるのか。
久保山さんの答えは、かなり明快でした。
強みは、もっと強く
久保山:「俺、もうウィークポイントを諦めてる部分があります・・・(笑)」
shuntaro:「それは全然ありだと思うよ」
久保山:「強い人がいるなら、もうその人がやればいいと思ってるんで・・・編集・構成力とアイデア発想力が10になるなら、十分です。」
・・・苦手意識のある分野に得意な人がいるならば、自分は自分の武器をもっと強くしたい。久保山さんのグラフの形には、そんな性格まで表れています。
低いところを、底上げしたい
shuntaroさんは逆のタイプ。
shuntaro:「むずいな、これ。俺、結構弱点を消したいタイプだな」
久保山:「それ意外です。もう諦めてる人かと思ってました(笑)」
shuntaro:「意外とそうでもないよ(笑)」
・・・高いところをさらに伸ばしたい久保山さんと、低いところを底上げしたいshuntaroさん。どちらが正しいという話ではありません。さらに浦さんの場合は……
まずは、自信(笑)
久保山:「自分がつけた表を見ても思いますけど、浦さん一番ウィークポイントないから強いですよね。基本、2点差くらいに収まってるし」
shuntaro:「アイデア発想力で、自分が低すぎるせいで、そこだけが……(笑)」
浦:「そうなんすよ、自信がないんで基本的に」
久保山:「いまのキャリアとかこの能力感でいうと、自信は絶対に持った方がいいですよね」
shuntaro:「むしろ自信がないっていうマイナス特殊能力を消す方に、点数を振った方がいいかもしれないね(笑)」
・・・浦さんの場合は、能力そのものを伸ばす以前に、「自信がない」という部分を消した方がいいのでは、という話に。最初にアイデア発想力を「3」と評価していたように、ほかの2人からの評価に比べて、自分を低く見積もっている部分もありそうです。そんな話をしている途中、7項目には入っていなかった新たな能力が浮上しました。それは、「体力」です。
第8の能力は「フィジカル」
shuntaro:「調子のムラをなくすには、睡眠をちゃんと取って、運動をちゃんとするのが解決法じゃないかと思ってるんですよ、最近」
久保山:「shuntaroさん、ムラというより体調悪くなりがちですもんね」
shuntaro:「体力が。シンプルに」
久保山:「……それ、項目に入れた方がいいですね」
ここまで7つの能力について話してきたところで、まさかの「体力」という新項目が浮上しました(笑)。
確かに、長時間の撮影や打ち合わせが続くディレクターの仕事。どれだけアイデアや演出の能力が高くても、それを発揮し続けるための体力がなければ始まりません。
そして、そのまま3人の体力も採点してみることに。

久保山:「俺それでいうと、めっちゃ低いっす。自認」
浦:「高いかも、自分」
shuntaro:「そう、浦さん超高い」
浦さんは「9でもいいかもしれない」という高評価。一方で、shuntaroさんと久保山さんは、そろって「4」あたり。
久保山:「完全にウィークポイント」
shuntaro:「体力があるやつが、やっぱ結局一番強いよね」
さらに話していくうちに、体力があればメンタルも安定するのでは、という話にも広がっていきます。
身体的なタフさだけでなく、気持ちを安定させる力や、嫌なことがあっても受け流せる力まで含めて考え、最終的には「心と身体のフィジカル」という第8の能力が誕生しました。
久保山:「まずは体力だね」
浦:「まずは健康だ」
アイデア発想力、現場演出力、編集・構成力……といろいろ考えてきましたが、最後に出てきたのは、かなり根本的な能力でした。
いい仕事を続けるためにも、まずは元気でいること。
結局、すべての能力を支えているのは、そこなのかもしれません。
まとめ:いいディレクターって、どんな人?
「能力値で10を持っている人は、そのぶん何かを失っているのかもしれないよね・・・」
議論の途中、誰かから冗談半分でこんな話も出ました。しかし、すべての能力を10にすることは現実的ではないし、すべてをバランスよく伸ばすことだけが正解でもない気がします。実際、能力を数値化してみたことで見えてきたのは「自分に何が足りないか」だけではありませんでした。何を伸ばしたいのか。何を武器にしたいのか。逆に何をあえて伸ばさないのか。そこには、それぞれが目指すディレクター像や、仕事との向き合い方まで表れているように思います。
きれいな正多角形だから、いいディレクター。
一つだけ大きく尖っているから、いいディレクター。
・・・そんな単純な話では、たぶんなさそうです。
むしろ、自分がどんな形をしているのかを知り、そのうえで「どこに次の1ポイントを振るか」を考えられること。それが、自分なりのディレクター像をつくっていくことなのかもしれません。そして、ここまで来ると次に気になるのは「じゃあ、それぞれの能力って、どうやったら伸びるんだろう?」ということ。どんな経験を積めばアイデア発想力は伸びるのか・・・現場演出力は経験するしかないのか・・・コミュニケーション力は教えることで伸ばせるのか・・・。そして最後には、「これ、毎年やったら面白そうだね」という話に。すると、shuntaroさんからひとこと。
shuntaro:「下がりたくないなぁ(笑)」
たしかに、それはそうです(笑)
次回やったら、同じ形なのか。どこかが伸びているのか。それとも、思いもよらないところが下がっているのか。ひとまず今回見えたのは、3人それぞれの今の形。次は、その形をどう変えていくのか。そして、まだ数値にはできていない「特殊能力」には何が眠っているのか。
ディレクター会の話は、もう少し続きそうです。
構成:杉浦 巧 (Copywriter)
執筆:久保 立 (Copywriter)
