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ファッション写真って何? -日本ファッション写真の歴史- その3

shuntaro

さて、先ずは前回までのおさらいです。
「ファッションってなに?」という問いに答えるために、3つの方向性から分析を行おう!ということで、

1. ファッションという言葉の由来(言語的側面)
2. ファッションという言葉の意味(社会的・文化的・哲学的側面)
3. ファッションの歴史

という3つの軸の1と2(の途中まで)について書いてきました。

1では、ファッションという言葉の由来から、ファッションとは単なる衣服のことじゃなくて、「自己表現のためのもの」であるということがすごく大切なキーワードだというお話をしました。
そして、その自己表現とはすなわち、社会と自分の関係性の問題であり、それについて、2のファッションという言葉の意味をファッション学の切り口から入っていって考えてみました。
それによって、ファッションには、これがスタートって言えない形とか流行があって、常に変化し続けて、現れては消える、そういうもので、あんまりそれ自体に意味とか求めちゃダメってこと、そして、ファッションとは、衣服を媒介として、人々の身体を様々な様態に演出することであり、それによって起こる「流行」という社会現象のことを指す、という定義付けを行うところまでお話しさせていただきました。
(めっちゃ端折っているので、詳しく知りたい方は一個前の記事を読んでね!)

 

で、今回は前回の最後にたどり着いた場所から、ファッションの定義をより詳細に見ていこうと思います。
この

ファッションとは、衣服を媒介として、人々の身体を様々な様態に演出することであり、それによって起こる「流行」という社会現象のことを指す

っていう文章からは、2つの重要なことが読み取れます。

重要なこと その1

1つは、この文章の前半部分のお話、人間の身体とファッションの関係性についてです。
「ファッションとは身体の表面の変換作業である」と言ってるのは、哲学者の鷲田清一さん。阪大の総長までされていらっしゃったすごい哲学者の方です。鷲田さんはファッションを切り口とした研究を数多くされており、この分野の第一人者の方です。他にも「自分ってなに?」というような哲学らしい(といったらアレですが)テーマの本も書かれていらっしゃる方で、僕は修士の研究はアイデンティティとポートレートについての研究をしていたので、修士から博士まで、たくさん鷲田さんの本を読ませていただきました(笑)どれも面白いし、簡単な言葉で書かれている書籍も多いので、ぜひ読んでみてください!

で、その鷲田さんのお言葉、ちょっとそのままだと意味がわかりにくいですよね(笑)
ファッションって、まず衣服がもちろん要素としては最重要かつ最大のものなんですが、同時に例えば、アクセサリーや髪型やお化粧、それからタトゥーなんかも入ってきますよね。他にも枠を広げて考えてみると、民族衣装などの民族特有の文化、例えば刺青とか、中国の纏足とか、首長族の首を伸ばすやつとかも、全部ある種の「ファッション」だとも言えます。

そうしたこと全ては、私たちの身体を拡張して着飾る行為として捉える事ができますよね。例えば目尻をあげるとか、まつげを伸ばすって事、ヘアカットなんかは分かりやすいですし、衣服自体は身体を覆っているわけですが、それは隠すと同時に、どういう身体として自分を見せるか?って事に繋がっています。孔雀とかの羽の美しい装飾を考えると、結構分かりやすいかもしれません(笑)

つまり、人間は他の動物とは違って、自分で自分の身体の「イメージ」を作り上げる「ファッション」という手段を持っていて、いかようにも身体を加工・変換・演出する事ができるわけです!そして、それによって自分で自分の「セルフ・イメージ」を作ってしまえるわけです。
要するに、ファッションとは「自分らしさ」というセルフ・イメージを作り上げるためのもので、「自分のために」着飾るものなんです。これは何となく買い物するときに自分に似合うかな?って考える、あの感じを思い出すと分かりますよね。

でも、、その「セルフ・イメージ」って、単に自分が満足するためのもの、自分が何者であるかを認識するためのもの、ではないですよね?
今、多くの人が、自分がどういうファッションをしているかによって、そのファッションの持つ「イメージ」で他の人から認識される、ということを大前提として知っていると思います。オタクファッションをしていれば、本人がそうじゃなくとも、多くの人は「この人はオタクだ」と認識しちゃいます。これは要するに、ファッションとは、「自分という存在が社会の中でどう見られるかを表現している」と言えると思います。アメリカと日本とアフリカといった地域での衣服の差もそうだし、デザイナーとエンジニアと教師では違う格好を好んでいる、とかを考えると分かりやすいです。その属しているコミュニティによって選ばれる衣服が違う、という事は当たり前だけど、セルフイメージの形成に大いに影響を与えている、という点で面白いと思いませんか?

で、1つ目の話のまとめ。ファッションっていうのは、人間の身体の変換作業と捉える事ができて、それによって人間はセルフイメージを作り上げ、表現し、社会(コミュニティ)に向かって、それを発信している、という事が分かってきました。
もうちょっと続きますよ!

重要なこと その2

で、2つ目のお話。「流行という社会現象」がファッションにとって大きなファクター(要因)だというお話です。
その1で、ファッションは自分の存在が社会の中でどう見られるか、を表現することだというお話をしました。鷲田さんはそのことを「ファッションは身体の表面で起こる、自己幻想と「社会」との最初の出会い」と呼んでいます。この出会い、実は人々がファッションを通じて社会に向かって自己表現をする、ということだけではなく、逆に社会性を自分の身体の上で表現しているわけです。例えば、軍人は軍服を着ることで軍人としての社会性を自分と同化させるようなことです。毎年成人式で話題になるリクルートスーツとかも一緒ですね。昔はどちらかというと、そういう側面が衣服の役割としてはメインでした。ファッションは、階級や権力、職業を表して、それらしく振る舞うという機能を昔から持っているんですよね。

しかし、近代になると、そこからファッションは大きく飛躍します。それは権力や階級の象徴ではなく、「個性」の象徴としての役割を、社会の中でファッションが担うことになったのです。そして、「個性」も「美」という基準でもって、階級や権力のようにマウンティングの対象となっていきます。あの人はかっこいい、可愛い、素敵、個性的などなど、、、そのことが一種の権力や階級の代替となったとも言えると思います。
で、その中で人は、他の人とは違うと思われたい!という願望と、でも他の人と一緒でいたい!という画一性を求める願望という、相反する気持ちを抱くようになりました。人々は「美」において、他人から賞賛され、欲望・嫉妬され、そして他人に対して優越感を抱くようになったのです。こうした感情の中から、社会において優位に立つスタイルを生まれてきて、それを多くの人がフォローする「流行」という現象が生まれてきたんです。あのかっこいい・可愛い・素敵な・・・人みたいになりたい!ってことです。

美術史研究家のアン・ホランダーさんは、著書の「Seeing Through Clothes」の中で、ファッションとは、

ある瞬間に魅力的に見えるすべてのスタイルのことであり、流行とは、ある社会でだれもがそれを着ているところを見られたいスタイルのことである。そしてこの定義には、オートクチュールとともに、服飾史にときどき登場するアンチ・ファッションや流行を否定することのすべてが含まれる

と語っています。つまり、ファッションって、自分をこう見て欲しい!という想いで自分を着飾り、それを他の人が見て、あの人はこういう人だ、って思う、という自分と他人の関係性の中にあるわけですが、その中で他の人のファッションを見て憧れたり、逆に蔑んだり、っていう感情が生まれ、それが階級化していくことで、「より上にいきたい!」って気持ちがどうしても出てくるわけです。その「憧れの上流階級」のスタイルをみんながフォローする現象を「流行」と呼んでいるんですよね。しかも、その階級はすごく曖昧な気持ちをベースにしているから、権力みたいに割と固定化しなくて、流動的で気ままなもの、ということは分かってもらえるんじゃないかなと思います。だから、ファッションって「ある瞬間に輝いてるもの」を指すし、その輝きは流れるように移り変わっていく。しかも、そのスタイルが、それまでを全く否定するようなスタイルであることは良くあるし、何ならちょっと前に流行っていた「ノーム・コア」のような「アンチ・ファション」って呼べるようなことすらもファッションとして消費していけるんです。

以上をまとめると、ファッションというのは、何か強固な裏付けやシステムに支えられているような権力や階級、資産とかとは違って、「人の感情」を裏付けにしてるからこそ、前回の投稿でも見たように「常に変化し続けて、現れては消える」し、意味を深く求めるようなものではない、ということがわかってきました。ファッションとは衣服による自己表現であり、他者評価であり、流行の中で生まれてくる大きなうねりそのもの。そしてその軸は「美」と、ファッションは常に「今」であるってことです。その時、どう見せたいか、見えたいか、何が輝いてるか、ってことがすごーく大事なんです。だからこそ、ファッションを知るにはその歴史を紐解くことが必要になるんじゃないか、と考えて、3つ目の考察に移っていきたいと思います。

ちなみに最後に蛇足ですが、このように「今」が軸になっているということは、ファション写真というメディアが、ファッションの世界で大きな意味を持つ事になる上ですごく重要なことだ、ってことが段々と分かってくるんですが、その話はまた先のために取っておこうと思います 🙂

 

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